記事一覧

プロフィール

水谷 薫
大学4年生・メディア研究専攻。このブログは大学ゼミの一環で制作したものであり、内容も水谷本人が執筆・編集したもの。

参考書籍

6. 書籍はどこへ

ここまで見てきたとおり、間もなく出版社は業態の変革を迫られる。だが紙媒体がその役目を終えたのかといえば、これは違うだろう。ある産業がイノベーションによって崩壊する。弱者は淘汰され、法人であれば倒産に追い込まれる。、これは今に始まったことではない。過去に幾度も繰り返されてきた事象なのだ。しかし、イノベーションは文化までを破壊しない。テレビの普及によって映画は駆逐されなかった。今にして思えば当たり前のことだが、テレビの登場時には映画の存続を危ぶむ声が大多数であり、った。事実、映画産業は打撃を受けたのだ。映画俳優とテレビ俳優の間での摩擦・トラブルもあった。それを経て現在の共存状態に至っているのだ。同じことが新聞にもラジオにも当てはまるだろう。書籍に該当しないわけがない。

音楽産業は、まさに今イノベーションの荒波にさらされている産業である。CDにプレスされて販売されていた音楽が、データ化され、ダウンロード販売が主流になりつつある。自らのホームページで楽曲を販売するアーティストも居る。音楽の安価な自費出版である。その結果何が起こったか。ヒット(流行歌)規模の縮小。メーカーの苦境と倒産。ベンダーの独り勝ち。販売価格の低下。データコピーの問題。どれもが出版産業に降りかかると予見される出来事である。だが楽曲制作そのものにまつわる仕事へのニーズは消えないし、ましてコンサートがなくなることなど想像もつかない。デバイスが電子化しても人の心まで電子化するわけではない。むしろコンサートのように五感を刺激する商品は、一層価値が高まっていくのではないかとさえ思われる。文化は残るのだ。

書籍も同じである。あらすじを理解することだけが読書の目的ではない。良書は紙の質感など、装丁を含めて味わうものだ。この文化は決して消失しない。読者は電子版より高い金額を支払ってでも、その体験を求めるだろう。著者達にとっても、たとえ費用のかかる自費出版であっても、自作を書籍の形にまとめたい欲求を消すことはできないだろう。いくら便利なパソコンが普及しても、原稿用紙に執筆したい者も多いはずだ。 出版業界関係者に望むのは、不可避の変化を受け入れることだ。業界団体を設立して、イノベーションの働きを阻害することに意味は無い。新しい時代のインフラ整備が、世界水準に遅れを取るだけである。願わくば、小学館や講談社、文芸社などの既存の出版社とはいわずとも日本の企業から、アマゾン社やGoogleに並ぶデバイスメーカーやベンダーが誕生して欲しい。

Kaoru Mizutani 2010/04/10