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プロフィール

水谷 薫
大学4年生・メディア研究専攻。このブログは大学ゼミの一環で制作したものであり、内容も水谷本人が執筆・編集したもの。

参考書籍

3. 出版社の存在意義は

電子書籍の普及を控え、出版社はどのような変化を強いられるのか。この章では出版社の果たす役割について触れたい。

そもそも日本の出版業界の仕組み・商法は特殊である。出版社が大部分のリスク&リターンを担う構造になっており、著者も読者も脇役である。書店からの返品を前提とした委託販売制度が、それを体現しているといえよう。出版にまつわる最も大きなリスクである売れ残り(返品)を出版社が負っているのだ。この制度は雑誌の類を大量生産するのに適したものである。これによって、ベストセラーを生み出すためにまず話題づくりを仕掛けるという、マーケティング技術が格段に進歩した。しかしその一方で、どんな本を作るのか、その決定権が出版社へ極端に集約されすぎたきらいがある。本当の読者ニーズから乖離し、セオリーどおりの商法にのっとった、つまらない本ばかりが増えたという悪影響があった。しかも悲劇的なのは、雑誌と同じ流通システム・商法を、書籍にも同じように当てはめてしまったことだ。書籍は、雑誌化した。内容の良し悪しを競う文化は衰退し、タレント本かタイアップ本しか売れない有様である。

日本の出版業界はこの業界構造のまま、電子書籍の荒波にさらされる。生き抜くのは容易なことではないだろう。インターネット普及の際に最も影響を受けたのは出版業界の中でも"暇潰し"目的に読まれていた雑誌なのである。この10年で倒産した出版社の多くが、主に雑誌を手掛ける出版社であったことからも、それがわかるだろう。いくら電子データで読書の欲求が満たせるようになっても、製本された書籍の、紙の手触りを奪うことはできない。村上春樹氏の『1Q84』が200万部売れたことからも明らかだ。独創的な文学作品であれば、読者は対価を支払って書籍を手にしたいと思っている。絵本や、美しい装丁の写真集なども同様だろう。だが"暇潰し"の読み物は、インターネットや、電子書籍に取って代わられる存在なのである。

今後出版社に求められる働きは、限定的になるのではないか。第一に、出版社が売りたいものではなく、読者が読みたいものを発掘し届ける役割。元来出版社(編集者)に求められていた役割である。 第二に、著者側のニーズに対応して、美しい装丁の書籍を製本する役割。つまり、現在であれば文芸社などいくつかの出版社が手掛けている自費出版である。自費出版がより趣味性を帯びて、書き手の満足感を満たすビジネスとして、一定の市場を確立すると考えられる。


※自費出版から映画化された書籍「リアル鬼ごっこ」

Kaoru Mizutani 2010/04/10